一度入ったら最後、人間用ネズミ捕りだ
2019年のクリスティーナ・リッチ主演のアメリカ映画『エスケーピング・マッドハウス』をご紹介します!
女性新聞記者ネリー・ブライによる著書「マッドハウスでの10日間」にフィクションを加えたもので、精神科病院へ潜入調査に入った実話をもとに描いた作品です。制作はアメリカの有料テレビ局Lifetimeで、女性にフォーカスした作品を多く放映しています。
主人公を演じるのは「スリーピーホロウ」のクリスティーナ・リッチ。心神喪失のフリをして患者として精神科病院に潜入し、記憶を失うも正気だと主張する女性ジャーナリストを見事に演じています。
2015年公開の映画「マッドハウスでの10日間」は、著書に忠実に描かれた作品のようです。こちらもぜひ見てみたいですね。
それでは最後までお付き合いください!
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【あらすじ】
1887年、ニューヨークのブラックウェル島(現ルーズベルト島)の精神科病院に、心神喪失状態でさまよっていた、「ネリー・ブラウン」という自分の名前しか覚えていない女性が連れてこられました。この島には、行方知れずの妻や娘を捜しに来る人も多い。ネリーが誰なのか手掛かりを掴むため、”ブラックウェル島の謎の女”としてネリーの写真を掲載しましたが、好奇心で訪ねて来る人ばかり。記憶がないだけで正気のネリーは病院を出ようとしますが、主治医のジョサイア医師の説得により記憶が回復するまでは残ることに。しかし、そこに収容されている患者たちの多くもまた正気であることに気付き、グラディ寮長による”しつけ”や”治療”と称した虐待行為こそが問題であると考えたネリーは・・・。
【みどころ】
ブラックウェル島、精神科病院
そこには180名の女性患者がいて治療を受けていました。
”治療”以前の記憶はなく、私物は没収され、起床から就寝まで足かせのような靴のベルトは締め付けられ、入浴と称して冷水を浴びせられ・・・。寮長や看護師が肉やフルーツなど豪華な食事を楽しむ中、患者たちの皿にはお粥のようなものがお玉一杯ずつ置かれるだけ。
窓を全開にして湯冷めさせ、薬物を打たれ、一日中座らせられ、意味もなく延々と石を運ばせられる。水を頼んだだけでほうきで殴られたり、風呂桶で溺れるまで顔を布で押さえつけられたりした人もいる。
精神科病院と言っても、収容されているのは精神病を患っている人だけではありませんでした。無一文になった人や売春婦だった人たちも収容され、ある女性は英語が話せないというだけでこの病院に連れてこられました。「大半の人は正気なのに、ここにいるとみんなおかしくなる。」とネリーは訴えますが…。
ネリーの暴露により、警察の捜査が入って閉鎖。
”しつけ”や”お仕置き”や”治療”と称した虐待による身体的苦痛とそれに伴う精神的苦痛により、少しずつ正気を失っていった人が、一体どれほどいたのでしょうか?
グラディ寮長とジョサイア医師
ブラックウェル島精神科病院の責任者、グラディ寮長。”治療”と称して患者に虐待行為、しかもそれが患者のためだと本気で思っています。ネリーが正気で取材のために潜入したことを知っていて、水責めによって記憶をなくさせていました。それを”治療”と言い、記憶を取り戻したネリーを再度水責めに。
グラディ寮長は父を知らず、5歳で母を亡くし、”治療”以上にひどいことを大人にされた過去を持っていました。それに比べたらここでの”治療”はマシだと…。
そしてもう一人、優しく親身に話を聞いてくれる、新任のネリーの主治医ジョサイア。きつく締められる靴のベルトも、ジョサイア医師がゆるめ、グラディ寮長や看護師たちに対しても毅然と対応してくれます。
しかしその後、本性があらわに。ネリーが潜入前に書いた手紙を受け取った恋人バットが訪ねてきますが、いないと嘘をつきます。そして正気を訴えるネリーに対し、自分の気を引こうとするのをやめるようナナメ上な発言。
その後グラディ寮長によって、患者に手を出して前の病院で解任されたことを暴露されます。
グラディ寮長は育った環境が悪く歪んでしまったんですね。ジョサイア医師に関してはただの勘違い変態医師でした。
実在した主人公のモデル、ネリー・ブライ
主人公ネリー・ブラウンのモデルとなったのは、実在した女性新聞記者ネリー・ブライ。当時の風潮で、女性記者が本名で記事を書くのははしたないと言われていたため、「ネリー・ブライ」はペンネーム。劣悪な環境の工場や貧困街、芸術関連、メキシコ人の日常生活から政治批判、病院や工場への潜入取材、政治家の収賄など、秘密を暴露する女性ジャーナリストとして有名に。72日と6時間11分14秒かけて世界一周旅行し、日本のことは「the land of love-beauty-poetry-cleanliness(愛と美と詩と清潔の国)」と評しています。結婚して一時引退しますが、のちに社会的弱者を取り上げるコラムを定期的に書き、少年犯罪者の死刑執行に立ち会った記事も書いています。
ドラム缶の原型となる容器を発明した人でもあります。57歳の時に肺炎で死去。1998年にNational Women’s Hall of Fame(国民女性栄誉賞の殿堂入り)に選ばれました。
登場人物(キャスト)
・ネリー・ブラウン(クリスティーナ・リッチ)・・・主人公。ブラックウェル島精神科病院に潜入取材に来たジャーナリスト。水責めによって失った記憶を取り戻し、島を出てその実態を暴露した。
・グラディ寮長(ジュディス・ライト)・・・ブラックウェル島精神科病院の責任者。ネリーが収容されたとき、正気だとわかっていながら”ちょっとした”矯正(風呂桶に沈める水責め)によって記憶を空っぽにさせた。
・ジョサイア医師(ジョシュ・ボウマン)・・・ネリーの主治医で、優しく善良な医師に見えたが、以前別の施設でお気に入りの1人の患者に手を出して解任された過去を持つ。
・ロッティー(アンニャ・サヴィッチ)・・・名家ホリスター家の娘。少しずつ正気を失い、最後は焼身自殺。
・グルーペ・・・看護師。グラディ寮長の右腕。”しつけ”を盾に患者に高圧的。
・フェントン・・・看護師。唯一グラディ寮長のやり方に疑問を持ち、ネリーに対しても優しい。ネリーの脱走を手引きするフリをして裏切るが、バットが2度目に訪ねてきた時ネリーがいる地下の仕置き室まで誘導した。
・バット・・・ネリーの恋人。ネリーを捜しに病院まで来たが、ジョサイア医師の嘘で病院を後にする。その後潜入取材に行くというネリーからの手紙が届き、再度病院へ行き、”治療”中のネリーを助け出す。
【感想・評価・レビュー】
「スタンフォード監獄実験」でもあったように、環境によって人は邪悪になることもあるんでしょう。グレディ寮長やグルーペのように。ロッティーのように心が壊れてしまう人もいるでしょう。人間の精神は本当に難しいものです。強気な人が一瞬で心が崩壊し、逆に優しい善人が一瞬で邪悪に染まってしまうこともあります。精神科で働いていたけど、今はそこで患者として入院している知人がいます。
病院や施設の従事者による患者への虐待行為は、今でもたまに報道されますが、氷山の一角かもしれません。
精神ケアの改善へと繋ぐ道を作ったネリー・ブライの著書を描いた『エスケーピング・マッドハウス』はオススメ度「★★★」
次の作品をお探しの方は「エリザベス -狂気のオカルティズム-」をオススメします!
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
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