家族に本当に必要な「絆」。それがここにありました・・・
今回は観てきた作品「万引き家族」は、「第71回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門 パルムドール(最高賞)」を受賞した作品で、日本社会を風刺したある意味問題作だったと思います。
アットホームな家庭でありながら、色んな闇を抱えた人が寄り添いながら生活していく物語に思わず夢中になって観てしまいました。
不遇な環境の中で、少し変わった人間関係の中に「絆」というものが確かに存在した心温かくなる作品であり、心苦しくなる作品だと私は感じました。
登場人物がどのような結末を迎えることがハッピーエンドといえるのかわかりません。子供たちが劣悪な環境でも血の繋がる親の元で暮らすのがいいのか、血の繋がりよりも心の繋がった環境で暮らすのが幸せなのか、考え方によってその結末の感想は大きく変わってくると思います。
さらに安藤サクラさんの表現力、リリー・フランキーさんと樹木希林さんの円熟した演技を観るだけでも満足度の高い作品になっています。
それではどんな作品か、感想・レビューを書いていきたいと思いますのでしばしお付き合い下さい。
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簡単なあらすじ紹介!
東京の下町にある古びた一軒家では一家五人が共同生活をしていた。
治(父)は定職を持たず、信代(母)はアルバイトをしながら貧乏な生活を送り、初枝(おばあちゃん)は表向きは独居老人として年金を受給しながら生活を送っている。
治は祥太(息子)を連れてよく万引きをしに出掛けて家計の足しにし、亜紀(妻の妹)は風俗店でバイトをしていたがそんな生活の中でもいつも笑顔が絶えない家庭だった。
そんな冬の寒い日、近所の団地の1階の外廊下で、一人の女の子が震えているのを見つけ、連れ帰る事にした。
連れて帰ってご飯を食べさせていると、ゆり(女の子)の体にはあざや火傷が多く見られた。
その後子供を返しに行くと、家の中からは子供をめぐる怒鳴り声が聞こえ、虐待の疑いがあると感じた治と信代は再び連れ帰ってくることに・・・
6人となった家族が貧しいながらも助け合い、必死に生きていく心苦しくなる物語。
今作の見どころ!
問題山積み!心で繋がる新しい家族の物語
この家で暮らす五人には血縁関係なく、一つの家に集まって共同生活を送っています。そんな普通とは違った形の中で家族として生活する人たちには「絆」というものが存在し、まるで昭和の家族のような温かさがある環境で生活しています。
子供には本当の愛情の形を教え、不器用ながらも生きるために必要なことを教え、誰かが誰かに寄り添いながら生きています。
時にはみんなで海に行ったり、子供の髪を切ってあげたりと、何気ない日常の幸せがこの家庭では当たり前のように行われており、まるでドキュメンタリー作品のようです。
しかしそこで暮らす一人一人は様々な問題を抱えており、みんなで助け合いながら血縁を越えた本当の家族になっていきます。
虐待を受けていたゆりがこの家族の一員になってからは祥太がお兄ちゃんとして成長していく様子や、信代がゆりに愛情表現は叩く事ではなく抱きしめる事・・・と教える様など、絆というものが目に見えるようでした。
毎日辛く、苦しい生活を送っている柴田家は、裕福ではないものの確かに幸せのある温かい家庭があります。
心で繋がった一つの家族の形をぜひ見ていただきたいと思います。
詰め込まれた見えにくい社会問題
今作では「万引き家族」のタイトル通り、万引きなどの犯罪行為が当たり前に行われていきます。社会問題になっているワーキングプア問題(働く低所得者)を抱える人達が生きていくために罪を犯してしまう家族の物語です。
他にもネグレスト(育児放棄)や幼児虐待、年金の不正受給や高齢者の孤独死、さらには雇い止めや日雇い労働者の労災問題など現代の日本社会では見えにくい負の部分に焦点を当てた作品になっています。
一度落ちたら這いあがるのは難しいと言われる低所得者問題なのですが、このような経験をされたことがない方は「登場人物に問題があったからそうなった!真面目に生きろ!」など思う方も少なくはないと思います。
しかしスキルや経験のない中・高年層の再就職は難しく、働く場所を見つけたとしても低賃金で働くことになる為、生活の中で犯罪を犯してしまうといった現状があるのも事実です。
さらに大人の助けがないと生きられない弱い子供達の問題は深刻です。育児放棄をされていたゆりが最後に自分の居場所として求めたものがその答えだと感じてしまいました。
今作を見て「つまらない。」「イライラする。」と思った方は、そんな世界と無縁な幸せな生活を送っていると思いますので、その生活が素晴らしいことだと感じてください。
犯罪は決して許される行為ではありませんが、社会風刺的な描写や現代の日本社会では見えにくい負の部分に焦点を当てた作品になっていますので自分の知らない日本の一部を垣間見ていただきたいと思います。
一人一人が抱える闇
柴田家で暮らす一人一人にはそれぞれが抱える大きな問題があり、本当の家族に求めていたものを与えられなかった人達が集まっています。
それぞれが家庭に自分の居場所が見つけられないほど追い詰められ、柴田家に集まって寄り添いながら暮らしています。
(一人一人の内容についてはネタバレ要素がありますので感想の後に書いていきます。気になる方や見終わった方は見ていただきたいと思います。)
今作ではそんな一人一人の置かれた環境に感情移入出来る方にはとても考えさせられる作品であり、一つの物語として第三者目線から見れる方にはつまらないと感じてしまう作品でしょう。
祖母の初枝は一人で生活し、死を待つだけの余生、治は信代を守るために犯した罪で居場所をなくし、亜紀は親の期待に応えられず、祥太はギャンブルにハマった親に放置され死ぬ寸前、ゆりはDVやネグレストの被害を受け続けているなど誰かに助けてもらわなければいけない状況でした。
一つ一つの問題は事件となりニュースなどで一度は耳にしたことがある事件だと思いますが、そんな問題を抱えた人間たちが強く生きていく物語になっています。
そんな問題を抱えた一人一人が、何を求めてこの家で家族として暮らしているのか作中から感じ取って欲しいと思います。
絆のみで繋がれた家族
この作品で同じ家に住み、生活している人達は他人でただの共同生活とも思えますが、そこには相手を思いやる「絆」が存在し、温かい家庭が築き上げられていました。
家族とはどんなことがあっても味方でいてくれる存在であり、無償の愛を与えてくれる存在だと思います。
血縁関係も大切ですが、元は他人だった相手と出会って家庭を作り家族になっていく事を考えると重要なものは血縁関係以外にも見えてくると思います。
家族というものに「結婚して法的に認められたから」や「血縁者だから」と言うような形式的な部分を重要視している人には決して面白い作品ではありません。
家族に本当に必要な絆や無償の愛の部分が前面に出ている作品になっています。
元々他人だった妻や夫を家族と感じられるのは何故なのかを改めて理解させられる作品だと思います。
登場する役者の素晴らしい演技力
様々な問題を抱えた人物が登場する本作では樹木希林さんをはじめ、リリー・フランキーさんや安藤サクラさんなどが出演しており、圧倒的な演技力で世界観を表現してくれています。
妹役の松岡茉優さん、子供役の城桧吏くんや佐々木みゆちゃんも負けないくらい素晴らしい演技を見せてくれました。
樹木希林さんの家族に向ける優しさと他人に見せるいやらしさは一瞬違う人物かと思うほどの表現をしていて、田舎のおばあちゃんのような温かさを見せるときもあれば、近所の変わり者のような一面も見せてくれています。
安藤サクラさんの生きるために強く見せる姿や時折見せる優しさ、何よりも心の葛藤や悲しさがあふれ出してくるシーンは目を離せなくなるほどの感情が伝わってきます。
リリー・フランキーさんは治のダメっぷりを表現しながらも家族に心を寄せている雰囲気がしっかり伝わってくるのですが、何よりも家庭崩壊後に情けないほど覇気が無くなった印象を受ける演技に驚いてしまいました。
他にも松岡茉優さんが見せる風俗店での冷めた目や、おばあちゃんといるときにだけ見せるさみしい目、城桧吏くんが妹が出来てお兄ちゃんとして成長していっている表現力など様々な所に見どころが詰まっています。
そして亡くなる前の樹木希林さんが見せる女優としての円熟した演技や、安藤サクラさんの心に訴えかける演技、リリー・フランキーさんの自然体ともいえる演技など、完成された表現を見れるだけで満足できるほどの作品になっています。
言葉をどれだけ並べたとしても、実際に観ていただくのが一番伝わりやすいと思いますのでこの作品の雰囲気を感じながら十分に楽しんでいただきたいです。
残念な点
一人一人の闇の説明不足
万引き家族として生活する6人にはそれぞれ闇の部分を抱えて生きているのですが、作中では多くは語られずもう少し詳しく知りたいと思いました。
治と信代が犯してきた罪、亜紀が劣等感を抱えた理由や風俗で働きだしたきっかけ、祥太が放置されていた状況、そして初枝が一人になりこの家族で生活し始めるまでの過程など、とても気になる部分が多くありました。
しかしその部分が多く語られていないとはいえ、2時間あるこの作品がその説明を詳しく入れたことでダラダラ長くなってしまうのもちょっと違うと感じてしまう所ではあります。
一人一人が柴田家に集まってきた理由だけでなく、状況までしっかり伝えられていたらもっと素晴らしい作品だったと感じてしまったのは私だけでしょうか?
この残念な所の結論は小説版を読むという答えにたどり着いたので記事を書き終えた後にゆっくり読み進めていきたいと思います。
私と同じようにこの部分が気になると感じた方は読んでみてはいかがでしょうか?
それでも犯罪は・・・
今作でタイトルも使われている「万引き」という犯罪についてはやはり許される行為ではありません。
軽い気持ちや出来心で行ってしまうことが多い犯罪ですが、その被害額は年間で約4000億円を超え、1日約12億円以上の被害が出ています。
家族を守るために行っているとしてもその犯罪には必ず被害者がいて、人生を狂わされた人も少なくない現実があるので簡単な気持ちで行っていい行動ではありません。
ワーキングプア問題から繋がる負の連鎖的な犯罪描写が多く、日本の見えにくい闇の部分がをしっかり見えてくるので決して加害者にならないように反面教師にしていただきたいです。
見えにくい部分ではありますが、このような生活を送っている人がいる現実を作品化した是枝裕和監督は本当に素晴らしい監督だと思います。
しかし家族が飢え、守らなければいけない状況がきたらもしかしたら私も同じ行動を・・・なんてことを考る日が来ないで良いように日々頑張っていきたいと思います!
盛り上がりがない
低所得者の日常を描いた作品だけに、特に大きな盛り上がりを迎える場面などはなく、淡々と物語は進んで行きます。
派手さや泣くことを狙ったシーンなどは見つけられない為、映画に非日常を求める方には合わない作品になっていると感じました。
しかし目を離せなくなるほど伝わってくる部分は多く、盛り上がりがない=つまらないと感じる作品ではありません。
低所得者の生活は海外のスラム街と聞けばイメージできると思うのですが、日本にも存在していることを第三者の目線で見せてくれる作品です。
そのため盛り上がる場面は見つけにくいですが、作られた映画のお話と思わずに見ていただきたいと思います。
登場人物と抱える闇
柴田治(本名・榎勝太)と柴田信代(本名・田辺由布子)
信代はある男と結婚していたが、その男に日常的に家庭内暴力(DV)を受けていて精神的に追い詰められていた。
その後、信代が経営する店の常連だった治は信代と謀って夫を殺害し、その死体を埋めてしまった。
裁判では治の言い分が認められ、正当防衛の末に包丁が刺さって殺害に至ったという判決が出され、執行猶予がついている。
柴田初枝
年金で一人暮らしをしていいた年配の女性。元夫は再婚後他界しており、その新しい妻との間にできた息子夫婦の家に亡くなった元夫にお線香を上げに行くという名目で訪ねては迷惑料として定期的に金銭を受け取っていた。
その息子夫婦には2人の娘がいて、その一人が後に柴田家で暮らす亜紀である。
柴田亜紀
亜紀は妹であるさやかの才能に期待する両親にその愛情の全てを奪われたと感じ、自分の居場所を見つけられなくなったことで初枝の家に転がり込んできた。
そしてJK風俗店では妹の名前「さやか」を源氏名にして働いている。
柴田翔太
数年前、治がパチンコ屋での車上荒らしを行っていた時に、偶然車内に置き去りにされた祥太を見つけた。
直射日光に当てられぐったりした祥太を見かけてそのまま連れて帰ってきた事で柴田家の一員として暮らすことになった。ギャンブル依存症の両親が起こした車内放置の被害児童になります。
ゆり
今作の物語の中で治が見つけた放置されていた女の子。体にはあざがあり、DVの被害も受けている。
物語の中では子供がいなくなっても数か月間捜索願を出さないなど、両親はゆりに対しての関心がなく現実世界でも問題になっている児童虐待、育児放棄の被害児童になります。
まとめ
初めに今作の「万引き家族」は、正直評価が真っ二つに割れる作品だったと思います。
物語は淡々と進んで行き、犯罪を犯しながら生きていくわけですから見る人によっては胸糞映画になってしまうかもしれません。
見終わった後に感動や涙が止まらないなどのエンターテイメント作品ではなく、貧困から日常的に犯罪を犯していくドキュメンタリーのような作品です。
しかし今作で取り上げられた社会問題の一つがあなたの隣の家で起こっていたとしても不思議ではありません。
隣人すらどんな人間かわからないほど閉鎖的になってしまった現代の生活で見えにくく関わりにくい問題ですが、この作品にはそんな問題に手を差し伸べられる人たちが集まり、家族として「絆」を作っていきます。
低所得の方々の生活がわからないと思った幸せな生活を送っている方々は、日本で一番日雇い労働者の方々が暮らす街、大阪・西成の生活を覗いたり体感してみてはいかがでしょうか?
正直この作品が「面白い」か「つまらない」かは観てみないとわからない問題作だと思いますので、気になるようでしたら観てみる事をオススメします。
最後に評価ですが、配役や演技力は申し分なく、心に残る物や考えさせる部分が色濃く表現されているが、犯罪が日常化している部分は観る人を選ぶ作品なので「オススメ度★★★★」で締めたいと思います。
(どんな理由があろうと犯罪は行っていい行為ではないのでそこはしっかり理解してください。)
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